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【最大90%の時間削減】生成AI最前線、 トヨタコネクティッド社のAI効率化事例と全社的生成AI導入戦略の全容

総務省が2024年7月5日に発表した「情報通信白書」によると、日本におけるAIの個人利用率は9.1%、企業利用率は46.8%となっています。

その背景には「使い方がわからない」という声が多くあります。

そこでChatGPT研究所は、日本企業のAI活用促進を促進するために、先進事例のインタビューシリーズを開始しました。

第1回は、AI専門部署を設立し全社的なAI活用を推進するトヨタコネクティッドさんに、AIの活用事例について話を伺いました。

トヨタコネクティッド株式会社概要

トヨタコネクティッドは、トヨタグループにおける戦略的事業会社です。

1. 設立と概要:
・ 2000年10月6日設立
・ 資本金:約6億5千万円
・ 株主:トヨタ自動車、マイクロソフト、セールスフォース

2. 事業内容:
・ コネクティッド事業:車両データを活用したサービス開発
・ MaaS(Mobility as a Service)事業
・ デジタルマーケティング事業
・ ディーラー・インテグレーション事業

3. 従業員数:
・ 単体で約1,230名
・ グループ全体で約2,000名(2023年12月現在)

4. グローバル展開:
・ 世界8カ国*でコネクティッドサービスを展開

5. 企業理念:
・ 「限りなくカスタマーインへの挑戦」を掲げる

トヨタコネクティッドは、自動車産業のデジタル化とモビリティサービスの革新を推進する重要な役割を担っており、トヨタグループのコネクティッド戦略の中核を担う企業として注目されています。

※日本、中国、タイ、インド、アメリカ、イギリス、ドバイ、南アフリカ

同社の取り組みは業務効率化から新しいサービスの開発まで幅広く、社内外で様々なAIや自動化技術を活用したプロジェクトを展開しています。

さらに、同社はOpenAI ChatGPT Enterprise導入企業として、最先端のAI技術の導入も積極的に進めています。

今回お話を伺ったのは、AI統括部の主査の原宣孝さんと、AI統括部 AI戦略室のExecutive AI Directorの川村将太さん(通称:しょーてぃーさん)です。

本記事では、AI統括部の設立背景、具体的な活用事例、そして今後の展望まで、トヨタコネクティッドのAIへの取り組みを詳しく紹介していきます。

トヨタコネクティッド 川村将太さん(左)、トヨタコネクティッドAI統括部主査 原宣孝さん(右)

原宣孝さん:トヨタコネクティッドAI統括部主査。社員番号100番台の社員で、20年以上のシステム運用経験を持つ。2024年4月新設のAI統括部で豊富な経験を活かし最新技術の導入に取り組む。

川村将太さん(しょーてぃーさん):トヨタコネクティッドAI統括部のExecutive AI Director。UXデザイナーの経験を活かし、ユーザー視点の生成AIの全社戦略立案と実行を行う。「みんなをAI-Readyな状態に変える」を目指しトヨタコネクティッド全体へのAI浸透を目指す。


⸺AI統括部設立の経緯と、その過程で見えてきた課題をお聞かせください。

原さん:
AI統括部の立ち上げには、大きく3つの背景がありました。

1つ目は、2022年秋頃から始まった取り組みです。当時、私たちは「ソフトウェアファースト推進室」という5人程度の小さな組織で、生成AIに関する情報収集を始めました。AIの可能性に着目し、調査を進めていたんです。

2つ目は、2023年春頃の変化です。この頃、世間で生成AIへの注目が集まる中、社内でも「いよいよAIに本格的に着手しないといけない」という機運が高まってきました

3つ目は、社内外の反応です。トヨタコネクティッド内で「生成AI来るかもね」という声が聞こえ始め、トヨタ自動車さんの中でも「AIはどうなの?」という関心が出てきたんです。

こうした状況の中、このまま各部署が個別にAIを導入し始めると、いくつかの課題が予想されました。

例えば、AIの利用に関する社内ルールの統一や、お客様へのAI活用に関する説明の一貫性などです。

そこで私たちは、AIの活用を全社で統括し、一貫した方針で推進する部署が必要だと判断しました

これがAI統括部を立ち上げた主な理由です。AIをより効果的に、そして責任を持って活用していくために、専門の部署を設立したというわけです。

AI統括部組織構成(2024年7月時点)

⸺AI統括部の設立にあたり、特に重視された点について詳しくお聞かせください。

原さん:
AI統括部の設立で特に重視したのは3つの点です。

1つ目は、過去の経験からの学びです。2011年頃、私たちはマイクロソフトさんやセールスフォースさんの協力を得て、クラウド技術を早期に導入しました。これにより既存オンプレミス環境からの脱却を進められましたが、技術の内製化に課題が残りました。

開発を外部パートナーに頼りすぎて、クラウド技術が社内に十分蓄積されなかったのです。この反省から、今回のAI導入では自社主導の技術習得と内製化を重視しています。AIの基盤技術とその活用方法を、自ら深く理解し推進する方針です。

2つ目は、全社的なAIリテラシーの向上です。まず社外のAI専門家を集め、最新のAI動向に詳しい人材で核となるチームを作りました。

そして、全従業員のAIスキル向上を目指しています。AIの基礎知識から実践的な活用方法まで、段階的に学べる教育プログラムを整備しました。これにより、開発部門だけでなく日常業務でもAIを活用できる環境を整えています。

3つ目は、経営陣の積極的な支援です。幸い、役員陣はAIの可能性を深く理解し、「いいね、やろうよ」と後押ししてくれています。この強力なサポートにより、AI統括部の活動を全社的に展開しやすくなっています。

最終目標は、社内のあらゆる業務へのAI浸透です。開発業務はもちろん、日々のメール作成のような共通業務まで、AIで効率化や質の向上を図りたいと考えています。全社員がAIを身近に感じ、人間らしいタッチと共感を持ちつつAIを活用できる文化の創造が私たちのビジョンです。

⸺OpenAIとの連携による具体的な成果をお聞かせください。

川村将太さん(以下、川村さん):
このパートナーシップは、私たちからOpenAIに申し込みをして実現しました。単にAIソリューションを導入するだけでなく、AIネイティブな考え方や働き方を学ぶことも目的です。

OpenAIの先進的な知見を得ることで、社内のAI活用を加速させたいと考えました。

具体的な連携として、ChatGPT Enterpriseの導入があります。これにより、セキュアな環境でAIを活用できるようになりました。

また、AI統括部によるセミナーに加えてOpenAIのメンバーによる社内セミナーも開催し、最新のAI技術や活用事例を学んでいます。

成果としては、社員のAIリテラシー向上に大きな効果がありました。AIツールの使用率が大幅に向上し、2024年6月末時点で380以上のGPTsが社内で作成されています。

一部メンバーに実施したGPTsの効果を調査するアンケートでは全体で67%の業務効率化を実現できました。

生成AIで業務効率を大幅に向上させた事例

⸺御社での生成AI活用の中で、特に効果的だった事例をご紹介いただけますか。

原さん:
当社では様々な場面で生成AIを活用していますが、特に効果が高かった3つの事例を紹介します。

1つ目は、社内で最も活用されている「咲文さん」というGPTsです。

川村さん:
はい、「咲文さん」は私たちが作成したしたカスタムAIツールで、議事録作成を支援するGPTsです。

会議などのメモと書き起こしデータを「咲文さん」に入力すると、重要ポイントを抽出し、議題ごとに整理して読みやすい精度が高い議事録に仕上げてくれます。

さらに、次のアクションまでまとめてくれるようになっています。

原さん:
2つ目は、クラウドサービスのライセンス管理業務の効率化
です。社内で使用している様々なクラウドサービス(SaaS: Software as a Service)のアカウント管理を効率化しました。

以前は月末の「棚卸し作業」、つまり各サービスの利用状況確認が大変でした。申請されたライセンス数と実際の利用数の照合に毎月約2時間半かかっていたんです。

そこで、この照合作業を自動化するGPTsを作成しました。その結果、作業時間を15分に短縮できました。これは、従来の作業時間と比較して90%削減になります。

年間で計算すると、約27時間の業務時間削減につながっています。小さいかもしれませんが個人がこのような業務改善を自主的に行える状態は、我々の目指す姿です。

3つ目は、プロジェクトの振り返り作業の効率化です。

川村さん:
プロジェクト終了後の「振り返り」は重要ですが、参加者の意見をまとめ分析・ネクストアクションを決定するのに一般的に時間がかかります。

そこで、AIを活用した振り返り支援GPTsを作成しました。参加者は意見を音声で直接入力でき、AIが自動的に文字に起こして整理します。

さらに、プロジェクトマネジメントやリフレクションの標準的な枠組みに沿って、問題点の分析や次のアクションの提案まで行います。

これにより、振り返りの質が向上し、次のプロジェクトへの学びが明確になりました。

トヨタコネクティッド社内で活用されているGPTs

⸺GPTs以外に、使用しているAIツールはありますか?

原さん:
全社で使えるわけではありませんが、Microsoft Copilot for 365を利用しています。これは各部署で必要な分だけ購入して使用しています。

最も活用されているのは、Teamsの議事録作成機能ですね。会議終了後にAIが内容をまとめ、話された内容やネクストアクションまでしっかり出力してくれます。

ただ、専門用語や業界特有の言葉の認識精度に課題があり、完璧ではありませんが、それでも会議の内容を効率的にまとめられるので、多くの社員に重宝されています。

川村さん:
技術面では、主にMicrosoft AzureとOpenAIのAPIを活用しています。社内のAzure環境を構築し、そこで使えるAPIやOpenAIから直接提供されているAPIを主軸として使用しています。

また、社内の様々なアプリケーションに我々のデータを参照させて活用するケースもあります。

将来的には他のAPIも使えるようにしていく予定です。

AI導入における最大の課題「情報管理」への挑戦

⸺AI導入を進める中で直面した障壁と、その解決策についてお聞かせください。

原さん:
一つ目の課題は、「AIツールに入力していい情報の線引き」でした。具体的には、「どんな情報を入れていいのか、どんな情報は入れちゃいけないのか」というところが、社員にとって大きなハードルになっているようです。

実は、我々の情報管理事務局が、SaaSツールで使用可能なデータと禁止データについて教育を行っているんです。

それにもかかわらず、AIツールに関しては「これ、入れていいんだっけ?」という戸惑いの声が多く聞かれました。

川村さん:
そうですね。例えば、住所を入力してはいけないというのは、ほとんどの社員が理解しています。

でも、業務特有の情報となると判断が難しくなるんです。 例えば、「車の機器の品番」などを考えた時に、これが個人情報と紐付く可能性があるかもしれない。

そう考えると、「もしかしたら危険かも」と思って、結局AIツールを使わないという選択をしてしまう社員が多かったんです。

個別の事象に対して柔軟に判断できるレベルまで、セキュリティや情報の扱い方の教育ができていないと、ちょっとしたイレギュラーケースで「もう触らない」という判断になってしまうんですよ。

原さん:
実際、皆さんが普段Excelで扱っている情報、OneDriveに保存している情報でさえ、AIツールに入力していいのか迷ってしまう。そういった不安がありますね。

⸺その課題にどのように対応されましたか?

川村さん:
まず、セキュリティチームと連携して、AIツール特有の情報管理教育をどのように行うべきか検討しました。

ガイドラインを作っても、それだけで社員が実際に使えるようになるわけではありません。そこで、具体的なユースケースを我々から積極的に示していくことにしました。

講義形式だけでなく、小規模なイベントを頻繁に開催し、そこで我々が実際にAIツールを使う様子を実演したり、ワークショップ形式で社員に体験してもらったりしています。

大切なのは、この小さなギャップを放置しないこと。多くの人が取り残されないよう、こういったイベントや体験の機会を積極的に設けています。

一人でも多くの社員がAIツールを適切に、かつ積極的に活用できるよう取り組みを続けているところです。

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【取材協力】

  • トヨタコネクティッド株式会社:https://toyotaconnected.co.jp/

  • トヨタコネクティッド株式会社 原宣孝さん、川村将太さん

◎ トヨタコネクティッド AI統括部 note

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