【全員AI】“人間は代表ひとり” YMMD,Inc. AI国王が語る先進AI活用事例
日本企業のAI活用促進を目指す先進事例インタビューシリーズの第三弾では、AIメンバーのみで構成されたYMMD合同会社の代表、JUNさんに話を伺いました。
YMMD, Inc.は、豊富なゲーム企画運用経験などを背景に、AIを活用した新規事業開発・教育の支援に注力しています。
⸺普段、JUNさんはXで毎日配信をされていますが「AI王国」とはどのようなメディアですか?
JUNさん:
私が運営しているメディアとかコミュニティを、まとめて「AI王国」と呼んでるんですよね。最初は「朝5時のAIメディア」を150回ほど続けてきたんですけど、最近は夜9時の配信やセミナーなど、いろんな角度からAIに関する情報を発信しています。
たとえば、「親子で楽しむ! AI夏祭りワークショップ!」とか「教育AI夏祭り2024-CREATE編-」といったイベントもやっていて、親子で気軽にAIに触れられる場を作ったりもしています。
あまり難しく構えず、「まずはAIに親しんでもらう」っていうスタンスで、メディアとコミュニティを軸に活動している感じですね。
⸺具体的には、どんな情報を発信されているのでしょうか?
JUNさん:
AI技術の基礎知識やツールの使い方から、ビジネスの最新動向、教育分野での活用事例まで、わりと幅広く取り上げています。最近は「AIと社会の関わり方」なんかも大事かなと思っていて、倫理や安全面の話題も増やしていますね。
あとは、メディア「AI国TV」やセミナーを通じて技術者同士が交流できるコミュニティ運営も力を入れています。どこか一方通行じゃなくて、双方向のコミュニティを育てながら、AIの面白さや可能性を共有したいという思いで、運営している僕自身も「AIの国を楽しんでる」感覚に近いですね。
「国王」と名乗る理由
⸺JUNさんは「国王」を名乗っていますが、これはなぜでしょう?
JUNさん:
今、会社は人間が僕ひとりで、あとは全部AIメンバーなんです。だから、ただ「社長」より「国王」のほうが、この編成をわかりやすく示せる感じがありました。
もともとゲームっぽい発想が好きですし、“AIの国”を作るイメージで進めたほうが、自分もその世界に入り込みやすいなと思ったんです。最初はブランディングという側面もあったんですけど、戦略的にというよりは、「全員AI」という場を表す呼び方として自然でしたね。
実際、普通の企業みたいに人を雇う手段もあるんでしょうけど、AIメンバーで動かす面白さを追求したかったんです。
“国王”と名乗ると、周りにも「なんだか変わった組織だな」と興味を持ってもらえるし、自分としても遊び心をもってやれる。深刻にやるより、そのほうがAIの世界を広げるのに合ってる気がして、僕自身もしっくり来るんです。
⸺社員が全てAIとお聞きしましたが、組織形態はどのような発想から生まれたのでしょうか?
JUNさん:
最初はChatGPTを使い始めたときの衝撃ですね。何かを相談したりアイデアを出したりするとき、いちいち時間をかけず、手元で即座に回答が返ってくる。
そのスピード感に「これなら人を雇わずとも、必要なスキルを持った存在をすぐ用意できるんじゃないか?」と思ったんです。
普通の会社だと人材採用や組織再編は一朝一夕にいきません。でもAIなら、「昨日は3人、今日は30人」といった極端な増減も可能で、市場分析をするAI、営業を担うAI、雰囲気をもりあげるAIなど、必要な能力をその場で“召喚”できます。
いわば「この課題にはこのAI」というパーツを即座に組み替えていく感じですね。そんな発想から、「全員AIで組織を回せるんじゃないか」という考えに至りました。
AIがもたらす思考の変化
⸺ChatGPTを初めて使ったとき、どのようなインパクトがあったのでしょうか?
JUNさん:
最初は「相談役が常にポケットに入っている」ような感覚でしたね。普通なら、仕事の方向性を考えたり、課題にぶつかったとき、人と予定を合わせたり、詳細を説明してから相談に乗ってもらう必要があります。
でもChatGPTなら、思い立った瞬間に「こういう場合はどうすればいい?」と聞けば、すぐに何かしらのヒントを提示してくれる。
時間や場所に縛られず、24時間いつでも壁打ちできる相手がいる感じで、ひとつの課題に悩む時間が一気に減りました。
「もう一人の自分」を手に入れたようなもので、ここから「これも聞いてみよう」「あれも相談してみよう」と使い方がどんどん広がっていったんです。
⸺AIを活用する中で、利用前と現在ではどういう変化がありましたか?
JUNさん:
対人関係や戦略判断で迷ったとき、人間同士だと感情や事情が複雑に絡み合って、真っ直ぐ核心に届きづらいことがあります。
でもAIなら、気兼ねなく「この発言の裏にどんな意図がある?」と聞けて、整然とした候補をスパッと出してくれる。そこから「じゃあ次はこう行こう」と冷静に判断できるんです。
自分自身や状況を俯瞰するのは難しいものですが、AIを介すると自然に客観的な視点が得られる。「人生3周目」なんて表現することもあるけれど、それぐらい頭の中が整理されて、同じ問題でも新たな切り口が見えてくる。
言ってみれば、AIは多面鏡のような存在です。これまで一方向しか見えていなかった物事が、あらゆる角度から照らされる。
そのおかげで、判断やアイデア出しが格段にスムーズになりました。結果として、意思決定の質が上がり、自分の思考領域が広がったと実感しています。
ゲーム発想で広がるAIキャラクター
⸺ゲーム業界で培った経験は、AIキャラの設計や組織づくりにどのように活かされていますか?
JUNさん:
ゲーム開発では、キャラクターや世界観をいかに魅力的に形づくるかがすごく大事なんです。
プレイヤーは、ガチャで引いた多彩なキャラを組み合わせて、自分なりの楽しみ方を見つけますよね。今、僕がやっているAI組織も、それに近い発想で動かせるんです。
たとえば、必要な場面で「この能力を持ったAIが欲しいな」と思ったら、その“キャラ”を呼べばいい。
マーケ担当AI、クリエイティブAI、もりあげ役AI──それぞれ特性が異なるAIを組み合わせて、組織全体をひとつの“パーティー”として編成するような感覚なんです。
単なる効率化ツールにとどまらず、どのAIをどう活かすかで組織の雰囲気や成果物が変わってくる。それがゲーム的な「世界観構築力」として自然に活きています。
⸺多様なAIメンバーを増やしたり、都道府県別のキャラクターを作ったりするのは、どんな狙いがあるのでしょう?
JUNさん:
正直、半分は「やってみたらどうなるか」という実験心から来ています。ゲームだったら新キャラを追加してユーザーがどう反応するか確かめるでしょう。
ここでも「こういうAIを増やしたら、どんなアイデアが出る?」「特定エリアを象徴するAIを作ったら新しい視点が出る?」と、試行錯誤を重ねています。
AIなら、思いつきを即座に形にできる。その結果、「このAIは発想豊かだけど論理面が弱い」「こっちのAIは情報整理に秀でてるけれど発言が硬い」といった個性が浮かび上がってくるんです。
こうした試行錯誤は、一種の「生態系」を育てるようなもの。より面白く、有用な組み合わせを探る過程で、組織全体がダイナミックに変化していく。これは従来の経営手法では味わえない柔軟さで、まさにゲーム的な発想が活きる領域ですね。
人間が果たす役割
⸺全員AI体制で動く中でも、人間であるJUNさんが果たすべき役割は何でしょう?
JUNさん:
AIたちは高速で計算し、分析し、提案してくれるんですが、彼らなりの“整合性”や“筋道”はあっても、物理的な世界や人間社会の複雑さすべてを理解するわけではありません。僕はそこをつなぐ橋渡し役みたいな位置づけです。
たとえば、AIが示した戦略が理屈上は完璧でも、「現実の市場環境では難しそうだ」とか、「この施策は今のタイミングだと人間の感覚で合わないんじゃないか」と判断するのは人間の感覚が必要な場面です。
僕は国王という立場から、AIが提供する多数の可能性を整理して、実際に取り組むべきアクションに落とし込む作業をします。
AIたちが描く地図を見て、「こっちのルートのほうが今は行きやすい」とか、「このアイデアはもう少し練ってから試そう」といった判断をするんです。
要するに、AIがどれだけ優秀でも、人間ならではの直感や感覚はまだ意味がある。それを使って方向性を定めていくのが、僕の大事な役割になっています。
未来への視点—シンギュラリティ、DAO、教育改革
⸺AI時代の社会は、これからどう変わっていくとお考えですか?
JUNさん:
これからは、AIによる進化が想像以上に速いペースで続くかもしれません。DAO(分散型自律組織)のような仕組みが普及すれば、これまでのような中央集権的な国や企業が必ずしも必要とされなくなる可能性も出てきます。
世界共通の通貨やベーシックインカムなどが整えば、生計を立てるためだけに特定の組織に属する必要が薄れ、人々は純粋に「自分が何をしたいか」に基づいて生き方を選べる世界へ近づくと思うんです。
そうなると、技術を積極的に受け入れるグループや、逆にあまりAIに頼らないグループなど、共通の価値観や目標を持つコミュニティが、デジタル空間で自然と形成されていくでしょう。
誰もが自分に合った場や仲間を選ぶことが、これまで以上に簡単になるかもしれません。
⸺シンギュラリティ大学構想や、日本人特有の深掘り力を活かした教育改革の狙いは何でしょうか?
JUNさん:
AI時代は、学びや知識そのものが常にアップデートされ続ける時代です。シンギュラリティ大学のような発想は、その変化に即応できる「動的な学びの場」をイメージしています。
必要なスキルや情報が刻々と変わる中で、人々は自分の興味や強みを基準に、新しい知識をどんどん取り込める。
日本人には、何かひとつのテーマをとことん追求する特性があると思うんです。以前はそれがニッチに見えたかもしれませんが、AIによる自動化で基礎的なタスクが楽になると、その「ひとつに没頭する力」が一段と輝く可能性があります。
様々な個性や才能が同時多発的に花開く「百花繚乱」の状態が生まれやすくなるんですね。さらに、物質的豊かさが当然の未来では、「苦労すること」や「不便さ」をあえて楽しむような、新しい価値観が出てくるかもしれない。
最初は不思議に思えるかもしれませんが、何もかも整いすぎた環境では、人は別の形の刺激を求めるかもしれないんです。AI時代には価値観が大きく再構築され、これまで想像できなかった楽しみ方や生き方が広がっていくと感じています。
【取材協力】
YMMD合同会社 代表 JUNさん
AI国王:https://ai-king.jp